難問の解き方-解答編-
難問落穂ひろい 難し目のセットです。
問題の解答を示します。いわゆる難関大といわれる大学の問題ではありませんが、入試問題作成を担当する教授によっているものと思われます。受験生がどの程度正答しているのかは定かではありませんが、出来は悪かったと思います。問題演習として、この程度の問題が出題されることもあると認識すべきだと言う意味でとりあげました。
【問題1】
数列 a_n、b_n,c_nについて、a_1=1、b_1=2、c_n=3とします。
a_{n+1}=(b_n+c_n)/2
b_{n+1}=(c_n+a_n)/2
c_{n+1}=(a_n+b_n)/2
の関係が、n=1,2,3,・・・・・・・で成り立つとします。
このとき、
\displaystyle \lim_{ n \to \infty } a_n
\displaystyle \lim_{ n \to \infty } b_n
\displaystyle \lim_{ n \to \infty } c_n
が極限値を持つかどうかしらべ、極限値をもつなら、その値を求めてください。
(久留米大・医)
【解答1】
\displaystyle \lim_{ n \to \infty }( a_n-b_n)=0だからといって、
\displaystyle \lim_{ n \to \infty } a_n=\displaystyle \lim_{ n \to \infty } b_nと議論するのは正しくありません。極限は慎重に考えなければなりません。簡単な例は、a_n=n, b_n=nです。a_n-b_n=0ですから、n→∞で極限値は0ですが、a_n,b_n→∞です。それさえ考慮すれば、それほど難しくはありません。
条件式より、
a_{n+1}+b_{n+1}+c_{n+1}=a_n+b_n+c_n ですから、
a_{n+1}+b_{n+1}+c_{n+1}=a_1+b_1+c_1=1+2+3=6・・・・・・・・・・①
また、a_n-b_n=(-1/2)(a_n-b_n)=(-1/2)^{n-1}(a_1-b_1)=(-1/2)^{n-1}(-1)だから、
\displaystyle \lim_{ n \to \infty }( a_n-b_n)=0・・・・・・・・・②
同様にして
\displaystyle \lim_{ n \to \infty }( a_n-c_n)=0・・・・・・・・・③
よって、①、②、③から
\displaystyle \lim_{ n \to \infty } a_n=\displaystyle \lim_{ n \to \infty }(1/3)( a_n+b_n+c_n+(a_n-b_n)+(a_n-c_n))
=\displaystyle \lim_{ n \to \infty }(1/3)( a_n+b_n+c_n)=(1/3)(a_1+b_1+c_1)=2
同様にして、
\displaystyle \lim_{ n \to \infty } b_n=\displaystyle \lim_{ n \to \infty } c_n=2
【問題2】
\displaystyle \sum_{ i= 1 }^{ n } 1/i^k=1/1^k+1/2^k+・・・・・・+1/n^k+・・・・・・
の無限級数の収束、発散を判定してください。
ただし、有界な増加数列は収束する事が知られていますが、これは使っていいものとします。
(金沢美工大)
【解答2】
この元の問題は、完全に高校数学の範囲を逸脱しています。実際の問題には但し書きはありませんでしたので、高校の範囲で解けるように改題しました。
この問題は、実はリーマンのゼータ関数の実数の場合の議論です。
かつて、\displaystyle \sum_{ i= 1 }^{ n } 1/i^2=1/1^2+1/2^2+・・・・・・+1/n^2+・・・・・・=π^2/6
であることを証明させる問題が、細かい導入つきで日本女子大学 理学部に出題されています。有名なオイラーがスイスのバーゼルで証明した問題で、
バーゼル問題と言われています。本問の無限級数は、一般にはkを複素数sと考え、ゼータ関数 ζ(s)といいます。リーマンにより、
ζ(s)=0となる複素零点は、Re(s)=1/2であろうという予想がなされていますが、160年間未解決です。
S_n=\displaystyle \sum_{ i= 1 }^{ n } 1/i^k=1/1^k+1/2^k+・・・・・・+1/n^kとおきます。
k≦1のときは、n^k≦nより、1/n≦1/n^k
従って、S_n=\displaystyle \sum_{ i= 1 }^{ n } 1/i^k≧1+1/2+・・・・・・+1/n
>\displaystyle \int_{1}^{n+1} 1/x dx=log(n+1)
よって、\displaystyle \lim_{ n \to \infty } S_n=+∞
k>1のときは、
S_n<1+\displaystyle \int_{1}^{n} 1/x^k dx=k/(k+1)-n^{1-k}/(k-1)<k/(k-1)で、S_nは上に有界です。
また、S_nは、増加数列ですから、S_nは、収束します。
【問題3】
x>0において、
f(x)=log(x+1)-logxとします。
(1) 1/(x+1)<f(x)<1/x であることを証明してください。
(2) 次の不等式 f(x)>1/(x+a)が常に成り立つような最小の正の数aを求めてください。
(東京理科大)
【解答3】
(1) これは、多分楽勝です。
y=1/t を区間 x≦t≦x+1 で考えます。面積を比較すれば、
1/(x+1)<\displaystyle \int_{x}^{x+1} 1/t dt<1/x
よって、1/(x+1)<log(x+1)-logx<1/x が成り立ちますから、題意は証明されました。
(2) これを、どう扱うかです。考えにくい問題です。
g(x)=f(x)-1/(x+a) (x>0)とおきます。
g'(x)=1/(x+1)-1/x+1/(x+a)^2=((1-2a)x-a^2)/(x(x+1)(x+a)^2)
よって、1-2a≦0ならば、g(x)は、単調減少関数になります。
また、1-2a>0なら、α=a^2/(1-2a)>0で極小値をとります。
ここで、①より、x→∞でf(x)→0ですから、g(x)→0です。
従って、x>0で常に、g(x)>0であるためには、
g(x)が減少関数であること、すなわちa≧1/2であることが必要十分条件です。
求めるaの最小値は、1/2です。
【問題4】
全ての実数xで定義された関数 f(x) は次の2条件を満たしているとします。
(A) 任意の x,y にたいして、
f(x+y)≧f(x)f(y)
(B) 任意の実数 xに対して、f(x)≧1+x
このとき、次の問いに答えてください。
(1) f(x)≧0を証明してください。
(2) 0<\vert h\vert<1のとき、(f(x+h)-f(x))/hは、f(x)/(1-h)とf(x)の間にあることを証明してください。
(3) f(x)を求めてください。
(宮城教育大)
【解答4】
(1) A,Bに、x=y=0を代入して、f(0)≧(f(0))^2、f(0)≧1 より、f(0)=1
f(x)=f(x/2+x/2)≧(f(x/2))^2≧0
(2) Aに、y=hとおけば、B,(1)から、
f(x+h)≧f(x)f(h)≧f(x)(1+h)
よって、f(x+h)-f(x)≧hf(x)・・・・・・・・・・①
同様にして、x=x+h,y=-hとおけば、
(1-h)(f(x+h)-f(x))≦hf(x)・・・・・・・・・・・・②
よって、①、②から、
0<h<1のときは、
f(x)<(f(x+h)-f(x))/h<f(x)/(1-h)・・・・・・・③
-1<h<0のときは、
f(x)/(1-h)<(f(x+h)-f(x))/h<f(x)・・・・・・・・④
となりますから、いずれの場合も題意が成り立ちます。
(3) \displaystyle \lim_{ h \to 0} f(x)/(1-h)=f(x)です。
また、③、④から
\displaystyle \lim_{ n \to \infty } (f(x+h)-f(x))/h=f(x)です。
よって、f'(x)=f(x)・・・・・・・⑤
f(0)=1と⑤の微分方程式から、(変数分離法)f(x)=e^xとなります。
(注)本問では、f(x)の連続性も微分可能性も仮定していません。通常の関数方程式は
微分可能性が仮定されている場合がほとんどですが、本問はこれを仮定しないで問題が
解けることを示しています。巧妙な難問だと言えると思います。