アインシュタイン規約ーベクトル・テンソル式の縮約規約

アインシュタインの総和規約(Einstein summantion convention)

物理学の理論や法則にはベクトル式やテンソル式がよく使われます。ニュートンの法則もそうですし、アインシュタインの相対論でもそうです。一般に物理法則では3次元や4次元が多いですが、もっと多次元のものも多くあります。そのとき総和をとる場合がよくあります。数学記号ではシグマ記号∑を使いますが、簡単のためにシグマ記号を省略する記法があります。アインシュタインが始めたものと言われていますので、アインシュタインの縮約規約といいます。

アインシュタイン規約とは

ベクトル解析やテンソル解析では、次元の関係で、Σ記号を使うことが多いのですが、書き下すのも、またΣ記号を使って書くのも、見にくくなってしまうことがよくあります。それを簡略化したものが、アインシュタインの縮約規約と言われるものなのです。テンソル解析は、大学の範囲ですので、ベクトル解析の例で考えてみましょう。次元は何次元でも構いませんが、物理法則でよく考えられるのは、3次元空間ですので、ここでは、3次元で考えてみます。

3次元\((x,y,z)\)空間で、位置ベクトル\(\vec{ p }=(x,y,z)\) とすると、\(\vec{p}=x\vec{i}+y\vec{j}+z\vec{k}\)となります。ここで、\(\vec{i}、\vec{j}、\vec{k}\)は、それぞれ\(x,y,z\)方向の単位ベクトルを表します。単位ベクトル\(\vec{i}、\vec{j}、\vec{k}\)を添字つきの\(\vec{e{1}}、\vec{e{2}}、\vec{e{3}}\)で表し、成分も、\(x{1}、x{2}、x{3}\)と添え字を用いて表すと、記法上単純化できます。つまり、ベクトル表記も、\(\vec{p}=x{1}\vec{e{1}}+x{2}\vec{e{2}}+x{3}\vec{e{3}}\) となります。
また、任意のベクトル\(\vec{A}\)は、\(\vec{A}=A{1}\vec{e{1}}+A{2}\vec{e{2}}+A{3}\vec{e{3}}\) となります。

このベクトル表示は、添え字、1,2,3を使うことにより、記法上とても見やすくになり、下記のように総和記号Σを使うことができるようになります。
次元がn次元であれば、添え字は、1からnまでの総和をとることになります。

\(\vec{p}=\displaystyle \sum_{ i = 1 }^{ 3 } x{i}・\vec{e{i}}\) ;\(\vec{A}=\displaystyle \sum_{ i = 1 }^{ 3 } A{i}・\vec{e{i}}\)

この式をよく見てみると、総和をとる式は、\(x{i}・\vec{e{i}}、A{i}・\vec{e{i}}\) であって、Σの部分は共通であることがわかります。従って積の式を注意しておけば、Σ記号がなくても\(i=1~3\)まで動かして総和をとる規約だとすれば、さらに簡略化できることになります。

すなわち、\(\vec{p}=\displaystyle \sum_{ i = 1 }^{ 3 } x{i}・\vec{e{i}}=x{i}・\vec{e{i}}\)
また添字は何でもいいわけですから、(dummy suffix) これは、

\(\vec{p}=\displaystyle \sum_{ i = 1 }^{ 3 } x{i}・\vec{e{i}}=x{i}・\vec{e{i}}=x{j}・\vec{e{j}}=x{k}・\vec{e{k}}\) となります。縮約標記をまとめると、積の形になったもので、添字が同じ文字であれば、その文字を3次元であれば、1から3まで動かし、総和をとるものです。

クロネッカーのデルタ

ベクトルや行列などの演算において、クロネッカーのデルタと言う記号があります。大学教養で学習する記号ですが、便利なものですから説明しておきましょう。クロネッカーはドイツの数学者で、理想数(イデアル)の発見などで有名な数学者です。クロネッカーは、全ての数は自然数から成り立っていることを信じた数学者として有名で、無理数や超越数や複素数などを生涯認めなかったことで有名です。しかしながら彼の後年の論文には微積分を使った証明があり、実数を認めなければなりたたないものです。ある著名な数学者は、クロネッカーが偉大であったのは、自分の理論にこだわらなかったためだとも言っています。
さて、クロネッカー(Kronecker)のデルタ(δ)ですが、これは、次のように定義されます。

\(δ{ij}=\)
\(0(i≠j)\)
\(1(i=j)\)
このクロネッカーのデルタを用いると、ベクトルの内積の表現が大変簡単になります。基底ベクトルを考えると、\(\vec{e{i}}・\vec{e{j}}=δ{ij}\) となります。

偏微分と縮約規約

3次元の偏微分を考えてみましょう。通常の3次元空間の偏微分は、\(\frac{ \partial  }{ \partial x }、\frac{ \partial  }{ \partial y }、\frac{ \partial }{ \partial z }\)で表されますが、ベクトル表記と同じく、\(\frac{ \partial  }{ \partial x{i} };i=1,2,3\)と書くことができます。またこれは、簡単に \({ \partial x{i} }\) とすることもできます。これを使えば、物理学でよく出てくる、∇(ナブラ)なども簡易に書くことができます。
\(∇=\vec{i}\frac{ \partial  }{ \partial x }+\vec{j}\frac{ \partial  }{ \partial y }+\vec{k}\frac{ \partial  }{ \partial z}\)
=\(\vec{e{1}}{ \partial x{1} }+\vec{e{2}}{ \partial x{2} }+\vec{e{3}}{ \partial x{3} }\)=\(\vec{e{i}}{ \partial x{i} }\) ととてもすっきりした標記式となります。このような標記を使ったのは、一般相対性理論を定式化しようとしたアインシュタインだと言われています。一般相対論に必要な数学は、テンソル解析です。アインシュタインは、このような数学はそれ程得意でなかったようで、テンソル解析につながる研究をしていたリッチとレビ・チビタの絶対微分学を相当学んだと言われています。

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